歌舞伎小唄「十六夜清心」(朧夜に)のご紹介。
「十六夜清心」(朧夜に) 作詞・浦上紀庵 作曲・草紙庵
朧夜に星影淡く消えのこる 鐘の響きも隅田川
弥陀を誓いし清心が如麟を数珠に百八つ
「この世で添われぬ二人が悪縁」
死のうと覚悟極めし上は「少しも早う」
実にうたてなき恋菩提 浮名流して水しぶき。
歌舞伎『小袖曽我薊色縫い』世話物。安政六年二月市村座、河竹黙阿弥作。
四代目小団次の清心。八世岩井半四郎の十六夜、三世関三十郎の白蓮で大好評。
舞台は鎌倉稲瀬川百本杭の場。正月十六夜の五つ頃(夜の8時)、極楽寺の役僧
清心は大磯扇屋の女郎十六夜と馴染んだ女犯の罪で、谷七郷お構いとなり、明日
は何処へと思案にくれるところへ、清心に逢いたさに廓をぬけた十六夜とぱった
り出逢う。どうせこの世で添われぬ悪縁と、清心二十五、十六夜十九の春を、相
抱いて稲瀬川に身投げする。
なまじ水に心得のある清心は、死ぬに死なれず波除の百本杭にすがりついてい
ると、梅見戻りの遊山船の華やかな騒ぎ唄に、「人生僅か五十年、あの世は無限
地獄へおち、呵責の責をうけるとも、この世で栄耀栄華をするのが得、こいつぁ
滅多にしなれぬわい」と、癪に苦しむ寺小姓求女(もとめ)を殺して五十両を奪った
のを手始めに、遂に鬼薊の清吉と人の恐れる悪党となる。
十六夜もまた、川下で白魚の四つ手網をおろしていた俳諧師白蓮、実は大寺庄兵
衛という盗人に助けられて、その妾となるが、のち清心菩提のため尼となって廻国
に出る途中、清心と逢い、十六夜お小夜と呼ぶ悪党となる。
この芝居は、世界を鎌倉にとってあるが、場所は隅田川、両国の百本杭、梅見は
亀戸の梅屋敷である。
明治四十二年一月歌舞伎座以来、十五世羽左衛門の清心、先代梅幸の十六夜は極
付となった。
女犯で追放された美僧清心と、遊女十六夜が、朧夜月夜の川端に展開する色模様
の美しい情緒は、頽廃した幕末の世相を遺憾なく表しており、小唄「朧夜に」は、
「朧夜に星の影さえ二つ三つ、四つか五つか鐘の音も」で始まる清元十六夜の、聞
かせ所を採っており、詩章自体すらすらと出来ていて、あとは作曲者草紙庵の、清
元から出て清元でない節付けを楽しむところである。
十六夜=陰暦十六日の夜。
如麟を数珠に百八つ=数珠のいらだかになっているのを鯉の鱗に見立てたもので、
清心が阿弥陀如来に誓って百八つの煩悩を断ち切ろうとする
ことを指す。
実にうたてなき=まことに情けない、不愍な。
如何でしょうか?ドラマチックな三味線の弾きで、芝居の情景が目に浮かぶよう
な小唄です。せりふが入ってるのがまた良いですねェ~。
私も随分前に日本橋劇場で開催された小唄本会でこの「十六夜清心」を弾きまし
が、本当に弾き甲斐のある小唄です。次はぜひ、唄ってみたいですね。
歌舞伎の舞台も解かりやすく、面白いです、お薦めの一本ですね!
ハイ