小唄「目見え染めし」のご紹介。
「目見え染めし」
目見え染めしは昨日今日
尽きぬ縁とてまた逢う夜半の
言いたい事もやま山吹の
言わぬ色なる身の辛さ。
明治中期に作られた江戸小唄である。
主人公は若い芸妓であろう。
「目見え染めし~また逢う夜半の」までは、「お目にかかったのは
昨今のことですが、ご縁があると見えて、また今宵もお目にかかれ
ました」と、そのお客に言うところで、『目見え』とは『まみえる』
に同じで、会うということを謙譲して言った言葉である。
奉公人が初めて主人に会うことを『目見え』ということから、芸妓
がお客に対して使う言葉で、「逢う夜半」は夜中と考えないで、今
宵もまた、という程度に考えてよいであろう。
「言いたい事も」以下は、申し上げたい事はやまやまありますが、
まだ馴染みも薄いので、申し上げられぬ身の辛さを察してほしうご
ざいます、という意味である。
「やま山吹の」は「言いたい事もやま~」と「言わぬ色なる」と
の二つにかけた言葉で、「言わぬ色」とは黄色のことで、黄色は「
くちなし」(梔子)が原料でこれから色素を採るので、昔から黄色の
ことを『いわぬ色』と呼んでいる。
「新古今集」に『山吹の言わぬ色をば知る人もなし』とあることか
ら、『言わぬ色なる』をここに引き出していることも明らかである。
主人公の若い芸妓は、まだ日も浅いにもかかわらず、そのお客
に強く心を惹かれているという心理が、この小唄では心憎いまで描
かれており、曲も、唄い出しの『目見え』と長く引いて唄う所に、
色気のある良い節がついており、早間な三味線でトントンと唄って
ゆく所は、文句といい節といい申し分のない、完成期の江戸小唄で
ある。
本調子の替手も面白くついており、しっとりと、情けのある小唄
とは、こんなものをいうのであろう。
なかなか意味深長な小唄ですね。
「くちなし」の黄色が「言わぬ色」とは知りませんでした!
味わい深い小唄ですね。また、「まみえる」という言葉も最近では
あまり使われない言葉ですが、とても奥ゆかしい雰囲気のある素敵
な言葉ですね。