小唄「今朝の別れ」のご紹介。
五月も半ばになりますと代掻も終わり、いよいよ田植えを待つばかり。
そんな景色を想い浮かべて、「今朝の別れ」を口ずさんでは如何でしょうか?
「今朝の別れ」
今朝のわかれに 主の羽織がかくれんぼ
雨があんなにふるわいな
青田みなまし がたがたとなく蛙。
明治中期の吉原を唄ったもので、帰しともなさに、遊女は男の羽織をわざと
隠し、主の羽織がかくれんぼしたと言い、「外を見なまし、雨があんなに降るわ
いな」といって引き止めるところである。
青田は吉原田圃のことで、青田が雨に濡れて鮮やかな色で、蛙まで風情を
添えている。吉原は今でこそ人家櫛比の中にあるが、明治年間は、見渡す限り
広々とした田圃の中にあった。竜泉寺のあたりを歩くと、右も左も一面の蓮田で
、花の咲く頃は芳香が鼻をついた、とは古老の話である。
廓を唄った小唄は、随分沢山あるが、こういった田園詩的なものは、ほかに一
寸見当たらない。(小唄鑑賞 木村菊太郎著より引用)
如何でしょうか? 遊女が帰したくない一心で「貴方の羽織が見当たらない、かく
れんぼしてしまった」というあたり、女心の可愛さ、せつなさが伝わってきますね。
私は「青田みなまし、がたがたと鳴く蛙」のところが好きです。好きな人が帰って
しまうという淋しい気持ちが、のどかな田園風景の中に無常に広がってくのを感じ
ます。その淋しい気持ちの中に蛙たちががたがたと鳴く声ばかりが響いてる。せ
つなさがより一層感じられる気が致します。
ちょっと、 水田の広がるような郊外を散策したい気分になってきました。
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