小唄「辰五郎」のご紹介。
「辰五郎」 英十三作詞 草紙庵作曲
東雲の櫓太鼓や初がすみ
曙匂う紫にかすむ鳥居の芝育ち
神の恵のかけまくも 引くに引かれぬ意地づくは
散らす火花も神明で さかりを競う花の春。
この曲は先日の「栄芝会」で私が唄わせて頂いた小唄です。
通称「め組の喧嘩」という歌舞伎小唄の一つであります。
『神明恵和合取組』世話物。
明治13年新暦三月新富座、竹柴其水作となっているが、実際は黙阿弥が全体の
筋立てをした。
神の恵とめ組をかけた鳶と角力の喧嘩を芝居に仕組んだもので、五代目菊五郎
のめ組の辰五郎が大好評であった、
江戸の町火消は、元禄四年町奉行大岡忠相が監督の下に、一番より十番までを
四十六組に分け、いろはを以て符号とし、め組は二番組に属していた。
組内の組織は、人足(まだ火消の数に入れぬもの)、鳶の者(鳶口を持つ火消)梯子持
纏持、組頭があり、組頭をまとめるのは頭取で、辰五郎はめ組の組頭であった。
火事と喧嘩は江戸の華と言われたが、この小唄は、芝神明の氏子の辰五郎が、
引くに引かれぬ男の意地から喧嘩となる気持を唄っており、いなせな鳶の者と、角
力とが入り乱れての大喧嘩も、一度和解の手打がすめば、それっきり五月の鯉の吹
き流し、腹に一物も残さない江戸っ子の心境を、唄いこめれば成功であろう。
昭和十五年辰年の新曲である。
東雲=明け方、曙と同じ。
櫓太鼓=相撲小屋の前に高い櫓を立て、開場前と打ち出しの際、打ち鳴らす太鼓を
いう。
昔、両国の櫓から、暁の静寂を破って打ち鳴らす太鼓の音は、安房上総に
まで聞こえるほどの撥の冴えをみせたという。
かけまくも=かたじけないの枕言葉。 木村菊太郎著「芝居小唄」より引用
前弾き、後弾きが上調子がついて大変三味線の演奏もしがいのある、華やかで
威勢の良い、粋な小唄です。
私は歌舞伎『め組の喧嘩』も観ておりましたので、いつか舞台で唄ってみたいと思っ
ておりました。
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