小唄 『仇な世界』 のご紹介。
『仇な世界』
仇な世界に仇くらべ 浮かれて遊ぶ飛鳥山
鐘は上野か浅草か 霞と雲に包まれて
笠へ散らすな 花の真盛り。
本調子で替手は三下がり。
明治中期に作られた江戸小唄である。
春四月、人々が競って花見に出かけたことは、江戸も明治も同じこと
であった。
宮中では古くから「花の宴」といって、桜を賞し乍らの酒宴が行われ、
民間では上野、飛鳥山、向島、小金井などが花の名所であった。
花の雲鐘は上野か浅草か。 芭蕉(続虚栗)
女子は「花衣」と言って、その日のために早くから花見衣装を用意して
華美を競い、花の下に「花筵」といって、宴席に筵を敷いて、前日から作
ったお煮〆をひろげる。
花より団子の酔客、おどけた仮装の人など、「花見」は東京の人々にとっ
て、楽しい年中行事の一つであった。
小唄は『仇な世界に仇くらべ』などと気取った表現を使っているが、「
仇な世界」とは、粋と遊びの世の中を言ったもので、「徒な世界」と言っ
ても良いであろう。
芸妓、幇間を引き連れて、飛鳥山の花見と洒落た一団を唄ったものである。
「笠へ散らすな」は、祝や祭礼の時に用いる「笠鉾」といって、大きな傘の
上に鉾や薙刀、作り花などを付けて持ち歩く飾り物を、仮装行列の連中が持ち
歩いたりするので、之が桜の枝に触れて花を散らさないでほしい、というほど
の意味であろう。 木村菊太郎著「小唄鑑賞」より引用。
今年の桜は寒い日が続いて長く愛でることが出来ましたね。
お花見の楽しさ、浮かれた気分は昔も今も変わらないんですね~!
「仇な世界」という言葉には心惹かれるものがあります。「粋」という言葉
も同じで、日本人としてのアイデンティティを強く感じさせますね。