小唄『われが栖所』のご紹介。
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小唄『われが栖所』のご紹介。

2017年10月19日(木)7:13 PM

 まだ十月だというのに寒いですね。

秋は何処へ行ってしまったのでしょうか。こんな日には暖かな部屋で小唄に

耳を傾けては如何でしょうか。

 

     『われが栖所』

 

 われが栖所は隠里  

  猫が三味弾く鼠が唄う小唄の面白や

   それを思えばやっこらさ

 浮氣思慮(おもわく)ささ舟にのせて

  梶を枕に寝てこがりょう しょんがえ。

 

 元禄十七年刊「落葉集」三巻「中興当流出端」に、勝井長右衛門の恋の

風流がある。

 昔の人の恋するは、命も絶えよと恋をする。さて中頃の恋の道、草木も

靡けと恋をする。

いま当代の恋の道、来うばこい来ずばままよとやあよや恋をする。

 鳥羽のあなたに恋路がござる~。はっちゃ許してさ。猫が三味ひく鼠が

歌う。これも思いはやっこりゃさ、やっこりゃ~~これ憎くや、云うも枕

が浮くばかり面憎や浮気だんべい思惑だんべい。

 恋と思いを笹舟に乗せて 押せさささ おさささ。舵を枕に寝て焦るる。

独り寝に泣く恋の憎さよ。

 

「われが栖所」は幕末、この恋の風流の文句をとって江戸端唄に作られた

ものであるが、原唄が「独り寝に泣く恋」を風流と唄ったものを、同じ隠

れ里の一人寝でも、「浮世の俗な考えや才覚はすべて笹舟に乗せて、その

笹舟の舵を枕に寝て過そう」という淡々たる心境を「風流」と唄っている

のは達観で、この端唄は相当名ある粋士の作詞・作曲になるものであろう

と想像される。

「笹舟」は笹の葉で作った舟で、伊勢地方の習俗に陰暦七夕に七夕星を迎

えるため天の川へ流すといって、熊笹の葉で作って海に流す行事があった

という。

「鳥羽のあなたに恋路がござる」という文句からいって、この行事の笹舟

を指したものと思われる。

 江戸小唄は端唄からとったものであるが、これが恋の唄ではなく、粋も

甘いもすっかり悟りきった人の枯淡な心境を唄う所が難しく、特に「やっ

こらさ」の唄い方は難しく、これが派手に唄えぬと唄が死んでしまう。

下手をすると、重い荷物を担ぐ様に聞こえてしまうことを注意して欲しい

また笹舟のささを拍子掛け声にして、「ささ舟に」と唄う唄い口もあるが。

これもまた面白いと思う。

 この唄は、古い上方の芝居小唄をもとにして作りながら、全く上方調を

とどめず、完全に江戸唄化した江戸小唄で、作詞も飄逸、作曲もまたすぐ

れた小唄の一つである。 木村菊太郎著「江戸小唄」より引用

 如何でしょうか?少し長くなりましたが、小唄の中にはいろいろなルーツ

や意味があって、実に興味深く面白いですね。

 「やっこらさ」を派手に上手く唄ってみたいですが、荷物担ぎの掛け声に

聞こえぬようにというのが案外難しいかもしれません。

 私は「猫が三味ひく鼠が唄う」の所が好きですね、場面を想像してしまい

ます。鳥獣戯画の感じでしょうか?楽しいですね

 

 

 

 

 

 



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