小唄「留めても帰る」のご紹介。
「留めても帰る」
留めても帰る 宥めても
帰る蛙の 三ひょこひょこ
とんだ不首尾の 裏田圃
ふられついでの ええ 夜の雨。
明治三十年頃、当時文壇の大御所尾崎紅葉が塚原渋柿園等と新橋の竹富
久井に遊んだ時に作詞し、同席の二世梅吉が作曲したという江戸小唄であ
る。
この小唄は、紅葉がまだ売り出し前の頃、吉原でお目当ての妓に振られ
て、仲居がとめても宥めても、帰る帰ると中っ腹で帰る途中、裏田圃(俗
に言う浅草田圃)で雨に降られた、という想い出を唄ったものであろう。
『帰る蛙の三ひょこひょこ』という文句が非常に面白いが、これは幕末
の『大津絵節』、【酒は拳酒 いろ品は 蛙ひょこひょこ(後略)とあるか
ら想を得たもので、夜の雨の裏田圃に、蛙がピョンピョンと飛び出す所
を三ひょこひょこと唄ったものであろう。
作曲もなかなかうまく出来ており、『とんだ不首尾の裏田圃』で新内を
使ったのが利いており、『夜の雨』でアメと軽く唄い放す所など、すっか
り江戸小唄の本行となっている。
『とんだ』は蛙が飛んだと、不首尾とにかけたもの、『ふられついで』
は妓に振られたついでに夜の雨にも降られた、など、紅葉の色男だいなし
という、洒落づくしの小唄で、現在酒席で盛んに行われている。
明治三十二年、半井桃水がこれを歌沢(寅派)として節付した。
「小唄鑑賞 」木村菊太郎著より引用
今、私は随分以前に習ったこの「留めても帰る」をもう一度浚い直して
いるところです。
舞台で唄われてるのを聞いて「なんて洒落た小唄なんだろう!」とすっ
かり気にいってしまいました。
途中の新内調が特に好きで、お師匠さんに頼んで浚い直して頂いており
ます。
粋で、洒落ていて、軽妙な味わいのこの小唄を早く舞台で唄いたいです
ね。