深まる秋に唄いたい小唄。
この季節に唄いたい小唄をご紹介したいと思います。
「二人が仲を」 江戸時代の作
二人が仲をお月さん それと粋なる朧影
吸付煙草の火明りに 話も更けてぞっと身に
夜寒の風のしみじみと 焦れったいのも口のうち。
この小唄は江戸時代末期に作られた江戸端唄を小唄化したものです。
夜寒は、秋の末、朝寒にくらべて強く長い寒さを言う。
吉原の仁輪加すぎたる夜寒かな。 (子規)
という句があるが、この江戸小唄は、秋の仁輪加の過ぎた吉原の、夜寒の風のしみじみ
と身にしむ小見世の格子先の情景を唄ったものである。
この小唄は、その見世の娼妓の一人と馴染んでからは、家を外に現をぬかし、親類縁者
からは借りつくし、今は不義理な客として、互いに逢うことを楼主から堰かれてしまった男
と、その男と逢ったために、年季を増やさねばならぬほど、借財を重ねている妓とを唄った
ものである。
今宵も、男は廓の中引け(午後12時)過ぎに、遊女屋の格子先に忍んで来るので、二人
の仲をそれと知ったお月さんは、粋をきかせて朧に隠れる。男は妓の格子越しに差し出す
吸付煙草の火明りに、お互いの顔のやつれを見て、声も出さずに忍び泣きする。
夜は次第に更けて、夜寒の風が遠慮なしと二人に身に沁みるが、二人はこの先どうしようか
という話し合いがなかなかつかない。妓は男の決心がつきかねるのをもどかしがって、「じ
っれたいね」と口の中でつぶやく、といった風情を唄ったものである。 木村菊太郎著 小唄
鑑賞より引用。
ちょっとこの小唄を聴いただけではなかなかこの様な情景を思い浮かべるのは、難しいです
ね。最近、江戸言葉、江戸仕草などの言葉をよく耳にしますが、江戸時代の文化や習慣を学
ぶのに、小唄は役立つし、とても奥が深く興味が尽きないと思います。
この秋、小唄を通して江戸時代に生きた男女の悲喜こもごもを味わっては如何でしょうか。