芝居小唄「三つの車」のご紹介。
「三つの車」 初代平岡吟舟作・曲
三つの車に法の道 火宅の門や出でぬらん
ソーラ出た 生霊なんぞはオオ怖や
『身の憂きに人の恨みは何のその わたしの思いは怖いぞえ』
なぞと御息所が乙う済まして お能がかりで仰言いましたとサ
のうまくさんまんだばさらんだで ヤンレ 身を焦がしたとさ
エエ悋気と浮氣は罪なもの。
『田舎源氏露東雲』清元所作事。嘉永四年九月市村座。三世桜田治助作。
紫式部の「源氏物語」の光源氏を足利時代に持ってきて足利光氏を主人
公にした「偽紫田舎源氏」(柳亭種彦作、歌川国貞画草双紙)を歌舞伎に仕
組んで「源氏模様娘雛形」の四幕目「名夕貌雨旧寺」なにゆうがおのあめ
のふるでらを舞踊劇として独立したもの。
八世団十郎の光氏、坂東しうかの黄昏、七世団蔵の東雲。
初演は富本で好評であったが、のち清元となり、明治二十四年八月市村座
より「田舎源氏露東雲」と名題を据え、今日でも「古寺」として流行して
いる。
小唄「三つの車に法の道、火宅の門や出でぬらん」は、磐若の形相すさ
まじい鬼女(実は東雲)が、「三つの車に法の道、火宅の門や出でぬらん。
仏の教え引替えて、人の怨の深くして、瞋恚の炎に身を焦がし、枕に立て
る破れ車、打ち乗せ隠れ行こうよ。」と、光氏に斬ってかかる所で、謡曲
がかりに唄う所である。
唄い出しはあくまで謡曲がかりで唄い、「ソーラ出た」からこ小唄にな
り「ソーラ」で一寸切って「出た」でさも怖そうに唄い、「身のうきに~
怖いぞえ」までは御息所のセリフで謡曲調である。
「のうまくさんまんだ、ばさらんだ」は、修験者の用いる不動の真言で、
「身を焦がす」は不動明王の像が背に火焔を負っているのと、悋気で焼く
とをかけたもので、糸につかず唄う唄い方。
最後の「悋気と金貸や」は、例によって小唄の面白い所で、始めは能が
かりで重く出て、すとんと落す、この小唄は、難曲中の難曲である。
生霊・・・生きている人の怨霊。
身の憂き・・・自分の心苦しさつらさの意。
乙う済まして・・・能の事であるから、悋気も怒りも表面に出さず演じ
られているのを、乙に済ましてと言った。
「悋気と金貸し」は平岡さんが、明治三十五、六年頃、河東節を家元の
秀翁について習っていて、たまたま「葵上」の稽古をしているとき、師匠の
秀翁が内々で小金を貸していること、その女房が大変悋気深いことを知って、
この二つを合わせて悪刷風なスっパ抜きの小唄にしたものと言われる。
(英十三「江戸小唄の話」)近頃は「悋気に浮氣は」と改めて唄われている。
「芝居小唄」木村菊太郎著より引用
如何でしょうか?小唄って本当に色々な趣の曲がありますね。だからこそ
お稽古していて飽きないんですね!
この小唄をお聞きになりたい方は春日とよ栄芝師匠のCD「ほたる茶屋」に
収録されておりますので、是非お聞き下さいませ。
確かに聞けば聞くほど難曲ですが、それ故に唄い甲斐がある小唄です。
歌詞も最後が愉快ですね・・・、私の好きな小唄の一つです。