小唄「長兵衛」のご紹介。
「長兵衛」 作詞 市川三升 作曲 草紙庵
阿波座鳥は浪花潟 藪鶯は京育ち
吉原雀を羽がいにつけ
江戸で男と立てられた 男の中の男一匹
いつでも訪ねてごぜえやし
蔭膳すえて待っておりやす。
歌舞伎小唄、「浮世柄比翼の稲妻」世話物。
因州鳥取の城主松平相模の守の家来白井正右衛門の一子
権八は性来武芸に長じて喧嘩乱暴を好み、寛文12年3
月10日の夜、叔父本庄助右衛門を殺害して国許を立退
、江戸表へと急ぐ途中、五つ半頃(午後9時)刑場のある
鈴ヶ森(品川)に通りかかる。
これより先、飛脚が通って権八というお尋ね者の出奔
を知った雲助共は、褒美の金にありつこうと、権八に討
ってかかる。
大勢の雲助どもを打ちこらして追い散らした若衆姿の権
八の、みごとな手の内を、駕の中から感心してじっと見
ていたのは、当時花川戸で名うての男幡随院長兵衛で、
『お若えの、お待ちなせえやし。』と声をかけ、権八の
前科はきかず、持前の男気を出して世話をしよう『いつ
でも訪ねてごぜえやし。』と言い、権八と江戸で再会を
約して別れる。
この唄は、最初に一をうって浪音を聞かせ、つづいて
蜩三重、之が弱めになったところで、九代目の声色で『
阿波座鳥は浪花潟やぶ」まで一息にもっていき、ちりりん
とはじいて、『うぐいすは』は京都の感じで柔らかく節に
入り、ホーホケキョを三味線に現わし、『京育ち』となる
。合方は浪音と「さつまさ」を使い、『吉原雀を羽がいに
つけ』は吉原雀の通いなれた土手八町の三味線で江戸っ子
調に唄い、『江戸で男と立てられた』はカンで、『男の中
の』は節でゆき、『男一匹』は、九代目張りでムナ男と言
って、『一匹』は節にする。『いつでも訪ねて』は『たん
ねて』と節でゆき『ごぜえやし』をセリフで言うが、これ
は軽くつめて言うこと。『かげ膳すえて』は節、『待って』
を節で、『おりやす』は大きく幕切れのセリフを利かせて
声色でゆき、送りは箱根八里となるのは鈴ヶ森の幕切れの
感じをそのまま使った。これが草紙庵の構想である。
阿波座鳥・・・阿波座は大阪の地名で、その辺を啼きつれ
る鳥で大阪名物。これに浪花新町の廓をぞ
めく客をかけており、『可愛い可愛いが身
の詰まり』の唄を匂わせている。
藪鶯・・・・・笹鳴きの鶯で京の名物。これに島原の廓をぞ
めく客をかけている。
吉原雀・・・・四月末より日本に渡来し、沼沢河辺の葭の茎
を巧みにさばいて虫を捕らえて食べる行々子
の異名で江戸の名物。これに吉原を流して歩
く素見ぞめきの客をかけている。
木村菊太郎著より引用
「長兵衛」又は「鈴ヶ森」とも言われるこの歌舞伎小唄
は大好きな小唄の一曲です。
歌詞は、長兵衛が権八に言う幕切れのセリフをそのままで、
芝居好きな私には唄い甲斐があります。
節も変化に富んだもので、江戸前だったり、京風であったり
。聴いてる方も楽しませる小唄ですね。
また、三味線のイントロがなんとも不穏な雰囲気で始まり、
そこから急にほんわか京風になるところが素晴らしいです!
まだ舞台で唄っていないので、是非挑戦してみたいと思っ
ています。