小唄「うからうから」のご紹介。
「うからうから」
うからうからと 月日たつのに
梨の礫の沙汰無しは
闇じゃ闇じゃと待つうちに
お月様ちょいと出て南無三宝
蕎麦屋さん何刻じゃ ひけじゃえ。
文政七年名古屋に流行した上方小唄を江戸端唄化したも
ので、原唄は
逢いたさ見たさに、親の目顔をくぐりくぐり
忍んで、闇じゃ闇じゃと待つうちに(下略)
という江戸端唄で、これを江戸小唄に移すときに『うから
うから』という歌詞に変えた。
平山芦江の「小唄解説」によると、「地廻り」といわれ
る若い衆で、かねて花魁に可愛がられて、なにがしかの心
附けをしてもらっては、その金で客に化けて通う男を唄っ
たもので、花魁の方がのぼせ気味で、心附けの度が過ぎて
、本当の客への勤めも悪くなりがちなため、やり手婆から
互いに逢うことを止められてしまっている。
女は女で男に逢いたいと、廓の中の駄菓子屋のおばさん
などを頼んで文をやっては、僅かな逢瀬を楽しんでいるが
男はそれが待ちきれない。
「うからうから」とはうかうかの意で、五月雨のこの頃
は花魁の便りは梨の礫の沙汰無しなので、『ああこの世は
闇だ闇だ。』と、月日ばかりたつのに堪りかねた男は、五
月闇のある夜時間を見計らって、頬冠りに顔を包んで、廓
に入り込み、女のいる家の四五軒も手前から、軒伝いに忍
び寄り、「まだ見世を張っているか、それとも客がついて
座敷へ引けたか、ああ逢いたいあ」と思い一足二足進むう
ちそれまで雲に隠れていた月が、雲を離れて横丁まで真昼
の様にパット明るくなってしまった。
「南無三、しまった。誰かに見つかったか。」と、軒下に
へばりつく途端、「うどんやそばうーい」という声。照れ
臭さに、「何刻だね、そば屋さん」と声をかけると、蕎麦
屋は間延びした声で、「四つじゃ、ひけじゃえ」と答える
所がこの唄の終わりである。
「引け」とは吉原言葉で四つ(午後十時)のことで、遊女
が本見世を下がる時間をいい、十二時は「中びけ」、午前
二時が「大引け」で、廓内一軒残らず大戸を下ろすことに
なっている。木村菊太郎著より引用
江戸情緒漂う、江戸時代の吉原の風景が見えてくるよう
な小唄ですね。
また、この短い小唄にこんな物語が描かれていることにも
驚きます。
あまり力まず軽く唄ってみると良いと思います。
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