小唄「権 八」のご紹介。
「権 八」 市川三升作詞・草紙庵作曲
ニ上がり
散りかかる浅黄桜や無常音
隙ゆく駒の路もはや
引かれ曲輪の涙橋
三下がり
流す浮名も小紫 結ぶ夢さえ権八が
まどろむ駕籠の仲の町。
「其小唄夢廓」清元所作事。文化13年正月中村座。
白井権八は若気の至りから故郷因幡国で本庄助太夫を殺害し、
江戸表へ出奔、幡随院長兵衛にかくまわれる。
ふと吉原の色里へ足を踏み入れ、三浦屋の小紫と馴染みを重ね
たのが身の因果、浪人の身の貯えも尽き果て、あさましくも、
辻斬り強盗を働いた罪により、遂に捕らえられ、裸馬で市中引
き回しの上、鈴ヶ森の仕置き場で磔の刑に処せられることとな
る。
そこへ廓を抜けて駆けつけた小紫が、役人の情で水盃を許さ
れると、小紫は隠し持っていた懐刀で、権八の縄目を切る。
はっと思って権八が夢からさめると、あたりはこの世の極楽、
花の仲の町へ通う駕籠の中でうたた寝しながら、今しも大門口
をくぐった所「さては今のは夢であったか・・・・。」
小唄は清元の上巻「権上」とよばれる件を唄にしている。
権八はこの不吉な夢が真実となって、延宝7年11月3日鈴ヶ
森で処刑され、小紫もその墓前で自害して後を追った。今日目
黒に残る「小紫権八比翼塚」がこれである。
権八が磔の間際に、その頃流行りの小唄「八重梅」
「梅が咲けかし、いよ八重梅が
を美音で口ずさんだというので、権八小紫の死後、八重梅の替
歌が流行った。
「逢いたさ見たさに飛び立つばかり
がそれで、清元はこの小唄を採り入れ、「其小唄夢廓」という
名題にしたのである。
小唄の「散りかかる~引かれ曲輪」までは清元の詩章を綴り
合わせたもので、前髪若衆の水もしたたるほどの権八が、裸馬
に浅黄色の囚衣、縛め縄の姿でのせられ、非人達に守られ、観
念の眼を閉じて刑場へ送られる凄惨な風景を唄い、「散りかか
る」から「無常音」までは、この唄の死命を制する聞かせどこ
ろである。
それから三下がりとなって、「まどろむ駕籠の仲の町」で、
夢からさめた権八が、折から迎えに来た新造や禿に囲まれて、
小紫から託された迎えの文を読む、といった華やかな吉原の風
景が、眼前に彷彿とする様に唄いこむところで、草紙庵の後弾
きはこの感じを非常によく出している。
鈴ヶ森 品川宿の外れの南にある波打ち際で、江戸時代
罪人を死刑にする場所であった。
浅黄桜 浅黄色の囚人の衣の肩に散りかかる桜。
無常音 清元では「今日ぞ鮫洲の無常音」となっている
鮫洲(品川区)天林山泊船寺の鐘の音が諸行無常
と鳴るのを指す。
隙ゆく駒 光陰の移り行くさまをたとえた言葉。ここでは
処刑されるため乗せられた裸馬を指す。
曲輪 吉原のこと。 芝居小唄木村菊太郎著より引用
さて、大変長い説明文ですがお芝居のストーリーを知って、
場面の転換を心得て唄うことで、より味わい深い芝居小唄が唄
えますね。また歌詞の意味も理解して唄うことはとても大事だ
と思います。
難解な小唄ですがその分唄い甲斐もあると思います。
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