小唄「われが住処」のご紹介。
「われが住処」
われが住処は隠れ里
猫が三味弾く鼠が唄う小唄の面白や
それを思えばやっこらさ
浮気思惑笹舟に乗せて
舵を枕に寝てこがりょ しょんがえ。
元禄十七年刊の「落葉集」三巻「中興当流出端」(芝居唄の一)に、
勝井長右衛門の恋の風流がある。
「昔の人の恋するは、命も絶えよと恋をする。さて中頃の恋の道、
草木も靡けと恋をする。
いま当代の恋の道、来うばこい来ずばままよと やあよや恋をする。
鳥羽のあなたに恋路がござる。はっちゃ許してさ。
猫が三味引く鼠が歌う。これも思いはやっこりゃさ、これ憎くや、
云うも枕が浮くばかり面憎や浮気だんべい思惑だんべい。
恋と思いを笹舟に乗せて 押せさささ おおさささ。舵を枕に寝て
焦るる。独り寝に泣く恋の憎さよ。
元禄時代の芝居唄(地唄の一)で、丹前で出端とは、立役や若衆が伊
達姿で花道を丹前六方という派手な歩き方で舞台に歩むときに唄われ
た唄で、作者の勝井長右衛門は当時の立役の一人であった。
「われが住処」は幕末、この恋の風流の文句をとって江戸端唄に作
られたものであるが、原唄が「独り寝に泣く恋」を風流と唄ったもの
を、同じ隠れ里の一人寝でも、「浮世の俗な考えや才覚はすべて笹舟
に乗せて、その笹舟の舵を枕に寝て過ごそう」という心境を「風流」
と唄っているのは達見で、この端唄は相当名ある粋士の作詞・作曲に
なるものであろうと推測される。
「笹舟」は笹の葉で作った舟で、伊勢地方の習俗に陰暦七夕に七夕
星を迎えるため天の川へ流すといって、熊笹の葉で作って海に流す行
事があったという。
「鳥羽のあなたに恋路がござる」という文句からいって、この行事
の笹舟を指したものと思われる。(『楽之友』13号英十三)
江戸小唄は端唄から採ったものであるが、これが恋の唄ではなく、
粋も甘いもすっかり悟りきった人の古淡な心境を唄う所が難しく、特
に「やっこらさ」の唄い方は難しく、之が派手に唄えぬと唄が死んで
了う。下手をすると、重い荷物を担ぐ様に聞こえてしまうことを注意
してほしい。(江戸小唄の話)また笹舟のささを拍子かけ声にして、「
ささ舟に」と唄う唄い口もあるが、之もまた面白いと思う。(小唄控)
この唄は、古い上方の芝居唄をもとにして作り乍ら、全く上方調を
とどめず、完全に江戸唄化した江戸小唄で、作詞も作曲も飄逸、作曲
もまたすぐれた小唄の一つである。(「邦楽之友」13号英十三)
「江戸小唄」木村菊太郎著より引用
というわけで大変長い解説文ですが、この小唄をお稽古される方に
とってはとてもためになる解説ですね!
この解説文を読む前と後では、唄う心構えがかなり違ってくると思い
ます。大切なことですね。
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