小唄『わしが思いは』
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小唄『わしが思いは』

2018年01月16日(火)7:13 PM

     『わしが思いは』

 

 わしが思いは 三国一の富士の深山の白雪  

  積りやするとも溶けはせぬ 浮名立つかや立つかや浮名

   あんなお方と云わんすけれど 人の心は合縁奇縁

    ほんに命もやる気に なったわいな。

 

 文政初年、江戸深川のかね文という材木屋の若主人が、大変芸好きで趣味の

広い人で、日頃贔屓にしていた料亭平静に材木を贈って浴場を造らせたという人

であるが(これが江戸で料理屋に内湯を設けた始めといわれる。)

 当時深川の売れっ子といわれた喜久次という芸妓を落籍(ひか)して正妻に迎え

た時の落籍祝いに作ったのがこの小唄で、その時若主人は二十八、喜久次は二十

二。祝いの席上この小唄の摺物を配り、西川の振事の手もついたというが、この

夫婦は誠に仲睦まじく添い遂げ、深川浄心寺に夫婦の墓が残っているという。

 むろん当時の小唄としては上方調の節付けで(当時江戸にはまだ江戸端唄は行わ

れなかった。)

 まず江戸で流行し、のち京阪に伝わり、当時の新曲として『浮かれ草』に収録

されたものと思われる。

 唄の意味は、浮名立つとも、あんなお方と世間から笑わりょうとも、私の心は

変わらぬという一途な女心をうたったもので、歌詞の中で『あんなお方といわん

すけれど』は、かね文の若主人が、生来の醜男なので、芸者でも二の足を踏んだ

ことをいったものであると英十三氏は解釈されている。(「邦楽之友」71号)

 この上方小唄は、幕末江戸で端唄・歌沢として流行した。

江戸小唄は端唄からとったものであるが、上方調の情緒溢れる小唄で、「浮名立

つかや立つかや浮名」から「人の心は合縁奇縁」と早間になり、「なったわいな

」と納めるあたり、三味線も節も非常に良く出来ている。(「邦楽之友」7号)

開放的で三味線に乗ってのびのびと唄ってよい小唄である。

 三国一・・・駿河国、甲斐国、相模国を三国といった。

 

 三下がりの曲で、テンポが良くて明るい調子の小唄なので、大変楽しく唄えます。

のりの良い曲は三味線を弾いても唄っても楽しいですね。

幸せに添い遂げた夫婦のことを唄ってるというのも気分が良いですね!

 



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