小唄『初雪』のご紹介。
『初雪』 初代清元菊寿太夫詞・曲
初雪に 降りこめられて向島
二人が仲に置炬燵
酒の機嫌の爪弾きは 好いた同志の差向い
噓が浮世か浮世が実か まことくらべの胸と胸。
明治二十年頃、菊寿太夫が六十八、九才の時の作と想像される。
向島は芸妓と客の遠出の場所として、知る人ぞ知るであった。
小唄『初雪』は、こういった明治二十年頃の、小唄完成期に作られたもので、
向島情緒を遺憾なく描写している。
人力車がまだ調法がられていた頃、季節外れの向島の水神で、男は浮名の
立つのを厭う年配の客、女はこの頃売出しの若い芸妓、しめし合わせて行きつ
の料亭で落ち合った所、折から外は初雪、しかも
初雪の大雪となる気配かな。
で、大雪になって人力車が通わぬようになって、帰れなければもっけの幸いと、
置炬燵で互いでお猪口のやりとりから、酒の機嫌で、その頃流行の江戸小唄を
爪弾きで唄う。
『誠くらべの胸と胸』は、二人の心意気である。
歌詞は、すらすらとして淀みないが、作曲は大いに技術をこらしたもので、清
元調の色濃い作曲で、「雪の合方」の高音を利用して、互いの熱を上げさせて
いるので、唄は殊更派手な節回しをせず、すんなりした中に良い味をきかせる
ことが、この唄のコツであろう。 木村菊太郎著「小唄鑑賞」より引用
如何でしょうか?大人のムード満点の小唄ですね。また、日本情緒たっぷりの
一曲ですね。
この小唄をお稽古したらこれから迎える厳しい寒さも何かチョット違う気分で
味わうことができる気がしませんか。
私などは雪がちらついて来たら、『初雪』を思わず口ずさんでしまいそうです。
場面を思い浮かべてしっとりと唄いたい名曲です。