小唄「楽屋をぬけて」
ホーム > 小唄「楽屋をぬけて」

小唄「楽屋をぬけて」

2014年10月10日(金)11:28 AM

 前回のブログで書いた「楽屋をぬけて」のご紹介を

します。

 

 「楽屋をぬけて」  長田幹彦 作詞  草紙庵 作曲

 

楽屋を抜けて橋の上 肌に冷やつく縮緬浴衣

扇づかいも水芸の   「お目通り」

笑顔で隠す今宵の別れ

浮世の瀬々を鳴き渡る あの夜烏も旅の空

月に更けゆく遠灯。

 

{泉鏡花}原作及脚本の「錦染滝の白糸」というお芝居の

卯辰橋の場面を唄った小唄です。

現在は新派のお芝居として「滝の白糸」といっております。

明治22年頃、金沢卯辰橋を臨む浅野川の川原に立てら

れた旅興行の小屋では、一座の太夫{滝の白糸}が得意

の水芸を披露し大喝采を博していました。

夜、舞台を終えて縮緬浴衣を素肌に着、白糸が歩いてお

りますと河原に寝ている村越欣弥を見つけます。

欣弥は数日前に馬車の御者をしていたおり、白糸一行が

人力車と争っているのを見て、馬車の馬に白糸を抱いて

乗せて走ったのです。欣弥はそのことが原因で馬車会社を

首になったと白糸に語り、また自分は法律を勉強して将来

司法官になりたいと語ったのです。

白糸は「私が仕送りをするから、東京で学問しなさい」と約束

をします。

それから3年後の晩秋、再び想い出の金沢で巡業中、東京

の欣弥から友人の借金に印判を押してしまい三百円という大

金が入用との手紙を受け取ります。

白糸は太夫元の若林に頼んで金を借り、兼六公園を通っての

帰路、一座の出刃打の南京寅一行に金を奪われてしまいます。

気を失っていた白糸が気づくと、闇に光る一丁の出刃。

手に取り、無意識に高利貸し桐淵の庭先に紛れ込むが、泥棒

と見られて老主人に組み付かれ振り放そうとしているうちに出

刃で刺し、老夫人も殺めてしまう。

白糸はこの世の名残に一目欣弥に会いたいと東京へ出るが、

その日欣弥は学業を終えて故郷金沢へ帰ったと聞かされる。

桐淵夫妻殺しは、出刃が証拠となって南京寅が逮捕され、白糸

が参考人として出廷するが、その裁判官の一人が一目会って死

にたいと願った新検事補の欣弥であった。

欣弥は夢にも忘れぬ恩人白糸を・・・・・水島とも(二十七歳)を

涙をのんで殺人罪で起訴する。

白糸は欣弥の法の正しさを喜んで舌を噛み切って死ぬが、欣弥

もまた白糸の後を追って、ピストルで自決する。

 

24歳の白糸と26歳の欣弥とが語り合うとき、卯辰橋の上を謡曲

を口ずさみながら人力車の車夫が通るのは、泉鏡花の故郷金沢

のスケッチで、「浮世の瀬々を鳴き渡るあの夜烏も旅の空」は、白

糸の旅芸人の哀愁をう唄い上げた佳品で、芝居ではここで「立山

節」の哀調を聞かせる。

縮緬浴衣=絹織物の浴衣。(普通は木綿)

お目通り=白糸の扇を使っての水芸の口上が欣弥との出会い

       から つい口から出てしまう様を唄ったもの。

浮世の瀬々=瀬とは早瀬ともいい、急流を指す。

         浮世の荒波とか、いずれもこの世の流れを指す。

                (芝居小唄 木村菊太郎著より参照)

三下がりの曲です。前半は軽快なテンポで、中盤からゆっくりと別

れを唄い、後半は切々と哀しい想いを唄い上げていき終わります。

とても唄い甲斐のある素敵な芝居小唄です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



«   |   »

過去の記事