春を唄った小唄
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春を唄った小唄

2014年04月08日(火)7:59 AM

春を唄った小唄は沢山ありますが、芝恋好みの一曲を

選んでご紹介致します。

 

   「春雨に相合傘」  半井桃水作詞

春雨に 相合傘の柄洩りして

つい濡れ初めし袖と袖

誰れ白壁と思ううち

色と書かれているわいな。

 

「柄洩り」は、傘の柄の上部がこわれて、そこから洩る

雨が柄を伝わること。日頃互いに憎からず想っていた

近所の若い男女が、ふとした事から道で出逢い、どち

らが誘うともなく、春雨が強く降って来たのを口実に、

相合傘で夕暮れの道を家路につく。そのうち雨がポトポト

と柄洩りして二人の手先を濡らすが、二人はそんな事に

は少しも気付かず、指と指との触れ合う度に心がときめく。

互いの家が近づくので、眼と眼で会釈して別れるころは、

二人の袖の片身は、何れもびっしょりと濡れていた。

後半の「誰れ白壁と思ううち色と書かれて」は、夕暮れの

春雨の中で顔も隠れていたことなので、誰も知らない筈と

思っていたのに、それから二、三日過ぎたある日、近所の

土蔵の白壁に、相合傘の柄の左右に二人の名を書いた

落書きが書かれていた、という意味です。

「誰れ知るまい」というのを「白壁」にかけ、「色」は恋人同志

の意味で、落書きを見た娘は、恥ずかしいやら嬉しいやらで、

顔を真っ赤にして急ぎ足で通り過ぎて行くが、「いるわいな」

なります。(小唄鑑賞 木村菊太郎著より参照)

この小唄の素敵なところは、若い男女の初々しさと恥じらいが

醸し出す、甘く、切なく、清らかな初恋を想像させるとこでしょう

か?それは長い人生のほんのひとときに訪れ、あっという間に

通り過ぎてしまう季節。短い小唄の詞の中で、こんなにも想像

力を掻き立てる半井桃水は、あの樋口一葉が想いを寄せた人

であるのも頷けますね。

 



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